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大学発ブランド「近大マグロ」探訪 

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寿司ブームで問題勃発!
日本のマグロ事情に射す一筋の光

 今や、世界中で食されるようになった日本食の代表料理・寿司。
 その中でも、本マグロの大トロは寿司の王様といっても過言ではないだろう。
 舌先でホロリととろける感触。濃厚かつ鮮烈な味わい。生のままはもちろん、焼いても、炙っても良し。マグロをお腹いっぱい食べたいと、日本人なら誰しもが思うのではないだろうか。

 縄文遺跡からもマグロの骨が出土していることからも分るように、日本人は古くからマグロを食用としているマグロ大好き民族だ。でも、ちょっと度が過ぎて、現在の日本は世界の海で年間に水揚げされる約200万トンのマグロの4分の1以上を消費する世界一のマグロ消費大国に。しかも国内の漁業だけでは需要をまかないきれず、冷凍マグロを大量に輸入している状況だ。世界中での乱獲が問題になり、オーストラリアの環境団体を中心に国際的な海洋資源保護が叫ばれている。

 また、近年の世界的な寿司ブームの影響で、海外でもマグロ需要が急増し、獲得競争が激化。その上、イラク戦争以降の原油価格の高騰で、燃費節約に対応できない水産企業の倒産が相次ぎ、とくに遠洋漁業の影響は大きく、国内のマグロの漁獲高は減少の一途にある。このままでは、日本の食卓からマグロが姿を消す日もそう遠くはないかも知れない。

 そんな前途多難なマグロ事情に射す一筋の光明。それが「マグロの完全養殖」だ。そこで今回は、世界で初めてクロマグロの完全養殖に成功した近畿大学水産研究所の大島実験場を訪ねて、お話を伺ってきた。
寿司ブームで問題勃発!日本のマグロ事情に射す一筋の光
日本最南端の町・串本 近大マグロ大島実験場へ

日本最南端の町・串本
近大マグロ大島実験場へ

 和歌山県串本町。そこは白浜から車で約1時間、穏やかな海が広がる本州最南端の町だ。そこからさらに串本大橋を渡った大島に、近畿大学水産研究所の大島実験場がある。
 完全養殖のマグロは、この大島実験場と鹿児島の奄美実験場で大切に育てられ「近大マグロ」のブランド名で、すでに関西を中心に一般市場に出回っている。

「串本と奄美で約40トン、およそ1000尾のマグロを出荷しています」
そう語るのは、株式会社アーマリン近大の大久保嘉洋氏。
 株式会社アーマリン近大は、55年の歴史をもつ近畿大学水産研究所が研究・養殖した魚を、「安全」で「安心」さらに「美味しさの探求」にこだわった魚として広く消費者に届けることを目的に設立された会社。同研究所が展開する養殖技術を礎に、クロマグロはもちろん、クエ鍋セットなどの加工食品やハマチ、マダイ、シマアジ、ヒラメ、トラフグなども販売している。

 社名に冠する「アー」には、アルファベットの最初の文字であり、常に水産増養殖のパイオニアであり続けていくという決意と、安心・安全の頭文字という意味が込められているという。その名に恥じず、近大マグロは今、世界中で注目されている大学発ブランドなのだ。
「近大マグロの一番の特徴は、完全養殖ということです」
 スーパーの魚売場などでは、時折「養殖」と書かれたマグロを見かけることがある。でも一体、一般の「養殖マグロ」と完全養殖の「近大マグロ」では何が違うというのだろうか。

完全養殖VS蓄養
近大マグロが達成した偉業

「世界中でマグロの養殖は行われていますが、それらは完全な養殖ではなく、蓄養(ちくよう)という方法で供給されているものです」と、大久保氏。
 蓄養とは、海で獲ったマグロを生け簀で大きく太らせて市場に売りに出す、という方法。餌を過分に与えられたマグロは脂肪分、つまりトロが多い。

 日本では幼魚のヨコワから、海外では主に成魚のマグロを漁獲して、それを生け簀で育てているという。
「それでは、従来のマグロ漁と同様、天然資源を利用していることに変わりはありませんよね」
 近大マグロの完全養殖はこの蓄養とは大きく違い、マグロを卵から人工孵化させて育てている。しかも、現在飼育されている完全養殖マグロの親の代も人工孵化で育ったマグロだから、100パーセント自家生産のマグロというわけだ。

 もちろん、すべての近大マグロが完全養殖ではない。大学ブランドとして商業化しているとはいえ、大きな目的は大学の研究施設だから、蓄養を含め、さまざまな形態での段階的な研究が続けられている。
「では、実際に養殖の生け簀を見ていただきましょうか」
 大島事業場場長補佐の岡田貴彦氏の案内で、大久保氏とともに船に乗り込み、マグロの生け簀に向かう。実験場の建物からおよそ10分で、生け簀の並ぶ海域が見えてきた。
「今日はちょうど出荷の日なので、釣り上げるところを見れますよ」
完全養殖VS蓄養 近大マグロが達成した偉業
迫り来る魚影 串本の海に黒いダイヤを見た!

迫り来る魚影
串本の海に黒いダイヤを見た!

 直径30m、深さ10mの円筒形の生け簀を覗き込むとすぐに、悠々と泳ぐマグロの魚影が見えた。間近で見ると、「黒いダイヤ」と呼ばれる意味がよく分る。しかも、かなりデカイ。
「あれはまだ70kgくらいですね。大きいものだと300kgを越えますよ」と、さらりと言ってのける大久保氏。

 すでに釣り上げ作業は始まっており、4人の職員さんが生け簀を囲んでマグロを狙っていた。
「もっと沢山市場に出して欲しいとの要請もありますけど、完全養殖のマグロの出荷は月に一本。次世代に繋げるために、そう決めて守っているんです」
 2002年に完全養殖に成功し、2004年に初出荷を達成してから、わずか3年。まだまだ完全養殖のマグロの頭数も少ない。今後、事業を拡大する為にも仕方のないことだろうと思ったが、実はそういう意図ではないらしい。
「これ以上の拡大は考えていません。大学が母体ですから経営より研究第一。それに、もっと別の展開を考えているんです」

 大久保氏が語るそれは、世界の食糧事情をも左右する壮大な計画でもあった。
「近大が培ってきた完全養殖のノウハウを世界に売るんです」
 なるほど。天然資源に頼らない自給自足の完全養殖が普及すれば、乱獲問題や燃料問題もクリアされる上に、食糧不足で悩む国の救済にもなりえる。宗教上の食事制約も、魚なら広い範囲で受け入れられるに違いない。
 近大マグロは、マグロの魚体以上に壮大な夢を孕んでいるのだ。
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