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香道、自分の内にあるものを味わう道 

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香道の基本は香木
麻布 香雅堂へ

 生まれてこの方、“道”と名のつくものをやったことがない。せいぜい授業で剣道をやったぐらいか。それでも茶道や華道は、正確に何かはわからないけれど、何をするかは何となく見当はつく。

 しかし香道、名前さえろくに聞いたことがない。匂いを嗅ぐらしい。匂いを当てたりもするようだ。
(短歌のようなもの?)
 しかしそれがなぜ道になるのか。そもそも道とは何か?

 わからないまま、「麻布 香雅堂」を伺った。
 代表取締役(というかご主人と呼ぶのが正しい気がする)山田眞裕氏は江戸時代から続く香木の輸入販売を行っている山田松香木店に生まれ、香木・香道具の専門家として雑誌等に連載を持つ。

 「香木がないと始まらない芸道で、その香木もわけがわからないものだということを理解していただかないと始まりません。香木という不思議なものに対する興味、それがまず出発点じゃないかと思います」

 なるほど。
 作法以前に、まず香木とは何か、を知ることが大事らしい。
 香木というからには木なのだろう、それが匂うのだろう。その何が不思議なのか、珍しい木なのか。

 これが香木です、出されたのは異様な黒い塊だった。

 化石?
 化石のような外観だが、化石ではないらしい。

「人間の浅知恵では計り知れないものを香木は持っているんです」

(???)
麻布 香雅堂
麻布 香雅堂

不思議な香木
科学が及ばない自然のマジック

 香木は大別して3種類、白檀(びゃくだん)、沈水香木(=沈香。じんすいこうぼく)、黄熟香がある。
 白檀は文字通りの香木で、木自体から匂いがする。
 練り香(香木と麝香などの他の香り物質を混ぜ合わせたもの)以外にも仏像を彫ったりすることも。これは別に不思議じゃない。

 計り知れないのは沈水香木だ。
 沈水香木は沈丁花科アクイラリア属の植物からできる。木自体には何の香りもなく、軽く、水にも浮く。

 一方、沈水香木は重く、その名の通り水に沈む。
 熱すると独特の芳香が漂い、熱しなければ半永久的に保存がきく。バクテリアは沈水香木を分解できず、土の中でも水の中でも腐ることも分解することもない。

 元々の木とはまったく異なる性質を持つ沈水香木は、いまだに再現できずにいる。人工沈水香木というものは、21世紀の科学でも作れないのだ。
 東南アジアのジャングルの奥が原産地で、しかもどの土地でも場所や状態が外部に漏れないように徹底した守秘主義が取られてきた。そのため、沈水香木がどういう状態で産出されるのかも長らく謎だったという。

 山田氏など香木を研究する人たちによって、木が外敵と戦った結果、香木が生まれるということはわかっている。

 他の植物や昆虫から身を守るため、植物は抗菌性物質のフィトンチットを分泌する。
 アクイラリア属の場合、フィトンチットのような物質を撒くのではなく、昆虫などに傷つけられた部分を変化させ、植物本体とは違う組成に変えてそれ以上の侵略ができないようにする。それが香木の原型だ。

 そうして組織が変成した部分がある程度まで広がり、やがて木が枯れ、何十年か何百年か、時間が経過する中で沈水香木が生まれるのだ。
 未だに人類が石油を合成できないように、沈水香木も時間のマジックによって生まれる自然だけの産物なのである。

奈良時代に日本へ
香道の成立は室町時代

 「現代では香りは溢れかえっていますし、その大半が押しつけがましい、嗅ぎたくないんだけど嗅がされる環境が一般化しています。しかし香木の匂いはそういうものとはまったく一線を画するもので、似たような香りは他に存在しないというものです」

 そんな不思議な香木を“聞く”のが香道だ。
 嗅ぐのではなく、聞くと表現する、そこに香道の香道たるゆえんがある。香木が日本に入ってきたのは奈良時代。

 「宗教儀礼に使われていたんですね。香料の種類と調合の割合が経典に書かれていましたから。そのまま取り入れていたのが奈良時代、未知であった香料が何であるのかまだ考えは及んでいなかったんじゃないかと思いますね」

 平安時代には貴族によって用いられ、それが香道の基礎となる。貴族は自分の美意識を表現するツールとして自分だけの香りを作ろうとした。

「どういう香りを身につけるかがその人の格や人となりを表わすものとして使われたんですね」

 技術的にも芸術としても香りはこの間に研究され、発達、やがて室町時代に香道として成立する。
麻布 香雅堂
麻布 香雅堂

熱で香木の香りを引き出す
お手前は究極の合理性

 香道には茶道や華道と同じく作法があり、それに従って香木を温める。

 「香木をお聞かせするには、聞香炉というもので香木のかけらを適度に加熱する必要があるんですね。常温ではほとんど香りがしませんから。香りを十分に味わっていただくには、いい条件で加熱するというのが絶対条件なんですよ」

 聞香炉によく火を熾した香炭団を入れ、灰を山状にかき集める。中心に火箸で穴をあけ、銀葉という雲母でできた薄い板を乗せる。
 銀葉の上に香木のかけらを乗せ、手で聞香炉を覆うようにして香りを嗅ぐ。
 この手順を正確に繰り返せるようになると常にベストの状態で香木を聞けることになる。

 「型とは何か? を考えていくと、形が問題じゃないんですよね。その形をとる、それは結果論で一種の合理性があると思うんですね。手前作法(灰手前)で何が重要かというと、香炉の温度設定を最良にすることであり、灰手前はそのために出来上がった手順なんだと思います。それは目指すものではないと思います」

 香道は香木の香りを通して、自分と対話する芸道だ。
 香木の香りを香りとして認知するのは自分自身だから、極端にいえば、香木の香りは自分の中にあることになる。それを掘り下げる。

 香道において、香木は自分を知るための媒体なのだ。

 組み香という香りを当てる席がある。回された聞香炉の何番目と何番目が同じかを当てる雅な遊びだが、これも香りについてより深く理解するための手段なのだという。

「本質は自分の内にあるものを味わうことです」
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