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アートとしての「磁性流体」

「磁性流体」ってなに?

 皆さんは「磁性流体」というものをご存知でしょうか。
1960年代初頭、NASA(アメリカ航空宇宙局)は、月に人類を送り込むための有人ロケットの開発に力を注いでいました。そのためには様々な問題をクリアしなくてはならなかったのですが、中でも無重力空間におけるロケットの液体燃料補給方法や宇宙服の動作部の真空シールの開発などは避けられない大きな課題となっていました。そんな問題を解決するために誕生したのが「磁性流体」なのです。

 「磁性流体」とは、マグネタイト(磁鉄鉱)の微粒子をケロシン(灯油)や水などに分散させた、固体と流体の混合体のことです。液体燃料の中に鉄の微粉を混ぜて磁力を使えば、燃料移送ができるのではないかと考えられたのです。液体である「磁性流体」の誕生によって、微かな漏洩も起こさない安全な宇宙服の製作も可能になりました。

 磁界に反応する物質は“磁性体”と呼ばれています。その代表的なものとして、鉄、コバルト、ニッケルなどの金属や、金属酸化物などが挙げられますが、これらはいずれも固体です。これに対し、「磁性流体」は液体なのです。固体の磁性体と同様、磁界に反応し、意図する位置に保持をさせたり、変化させたりできる材料としては、現在知られている唯一の素材といわれています。

 その自由自在に形を変えることができる「磁性流体」の特性を活かしたアートプロジェクトが、今、新しいアートとして注目を浴びています。
『突き出す、流れる』 磁性流体 インタラクティブ・アート
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『波と海胆』 磁性流体 インタラクティブ・アート

磁性流体のアートプロジェクトとは

 「磁性流体」は、黒褐色の艶やかな液体でありながら、磁界に反応する不思議な物質です。普段はコンピュータの中に使われていて私たちの目に触れることはほとんどないのですが、その面白い性質に着目してアート素材として活用するアーティストが登場してきました。

 東京都調布市の電気通信大学を拠点に活動するメディアアーティストの児玉幸子さんは、2000年から磁性流体を用いたアートプロジェクト「突き出す、流れる」を、国内では早くから磁性流体アートを手がけていたアーティストの竹野美奈子さんや、複数の技術者、写真家、デザイナー達の協力を得て進めています。彼等のテクニックのひとつは電磁石。電圧をコントロールすることによって磁力を調節し、この液体を吸い付いたり離れさせたりして、あたかも生きているかのように動かして見せることができるのです。磁性流体は、液体だけに、同じく磁力に反応する砂鉄などよりも、なめらかで美しく変形できるというわけです。

 児玉幸子さんは、そんな「磁性流体」を使ったダイナミックな造形を体感する数々のインタラクティブ・インスタレーションの作品で国際的に高い評価を受けています。

関連リンク:磁性流体のアートプロジェクト
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アートプロジェクトの作品とは

児玉幸子さんのアートプロジェクトでは、「磁性流体」を使ったインタラクティブな作品が複数作られています。代表作の「突き出す、流れる」は、2001年のSIGGRAPHアートギャラリーでたいへん話題となり、文化庁メディア芸術祭で大賞を受賞した作品。磁性流体のオーガニックな3次元的形状が、展示空間の観客の声などの音声の大きさに反応してダイナミックに変化します。その映像は、リアルタイムに巨大なスクリーンに映し出され、鋭い山形、海の生物のような形状、銀河系のような、輝く粒の流動となって、観客に迫ってきます。

 そのほかに、真っ白な光に包まれた部屋の食卓に、黒い液体(磁性流体)を入れた皿をアレンジした作品「脈動する」、水平・垂直面上に金属と磁性流体を構成した「均衡点」、磁性流体を小さな“海胆(ウニ)”と見立て、ウニが池を走り回る「波と海胆」などの作品は、Webでムービーが公開されています。

 「モルフォタワー 螺旋の渦」(2005年)では、新たな試みとして鉄を彫刻し、表面に磁性流体を流動させる新しい彫刻の原理「磁性流体彫刻」を利用しています。コンセプトは、「表面の質感がダイナミックに変化する有機的な塔」。CGのフラクタルが実在の物質となったように、繰り返し現れる液体の棘が、重力に逆らって鉄の表面を昇っていくさまは、「圧巻」の一言。

関連リンク:磁性流体のアートプロジェクト・作品集
『モルフォタワー』 磁性流体 インタラクティブ・アート