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生きたイカでつまみ作りに挑戦

生きているイカが届いた! 呼子のイカに挑戦

発泡スチロールの大きな箱が届いた。フタを開けると、細長いビニール袋がパンパンに膨らんでいる。ビニール袋の中で、ビチャビチャビチャと水が跳ねた。

イカである。生きている。生きているどころか、怒っている。胴体の色が、オレンジから濃い茶色へとまるでネオンのように変わっていく。これを食べようというわけだ。だが食べてもいいのか? こんなに元気では、水族館のようだ。これから水槽に放します? ではないのか?

佐賀県の唐津市は玄界灘に面したこじんまりとした街である。唐津市の呼子町はイカで有名なのだった。呼子港から水揚げされるイカは新鮮そのもの。もちろんそれはそれでおいしいのだが、それだけでは名物にはならない。最近の飲み屋は、イカの姿つくりを出すところがあるが、そのルーツが呼子なのだそうだ。生きているイカを捌き、胴体を刺身に、イカの目玉やゲソはそのままに客に出す。

なんといってもポイントは、その身の透明感。キリキリとエッジの立った刺身は、箸が透けるほど透明である。これは生きているイカでしかできない。死んだイカはあっという間に体が真っ白になる。

その新鮮なイカを生きたまま宅配してくれるのが、呼子の『いか道楽』である。ピッチピチのイカを海水とともにビニールに詰め、クール便で送ってくれるのだ。つまり自宅で、呼子に行かなきゃ食べられない、超新鮮イカ刺しを食べることができるわけだ。

商品名「活きてるまんま!」。剣先イカが2杯、酸素と海水が封入されたビニール袋で送られてくる。価格は大5,000円、中4,500円。それに送料がつく。 スーパーのイカが1杯158円なんかで売られていることを考えれば、超高級品だ。

そういうわけで、呼子のイカ。王道のイカの塩辛とイカ刺しをこしらえ、ちょいと一杯やろうじゃないかという算段なのである。
いか道楽
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失敗だ! ほっとくとイカは死ぬのだ

ビニール袋の中で、ビチャビチャと動くイカを見ているうち、いたずら心が起きた。ちょうど今は家に自分しかいない。帰ってきて、玄関に生きているイカがいたらどうだ? ものすごくビックリしないか? 2歳の子どもは、きっと「イカ! イカ! イカ!」と踊り狂うことだろう。

フタを開けたまま、玄関に入ってすぐに見えるようにイカを出しておいた。そして嫁たちが帰ってくるのを待った。2時間ほどして、ただ今、と玄関で声がした。荷物を下ろすバサバサという音がする。さあ、驚け、驚けとワクワクしながら待った。だが、いつまでたっても何も音がしない。子どもの走り回る音ばかりだ。おかしい。

嫁が部屋に来たので、イカ見た? と恐る恐る聞いてみた。

「イカ? 何それ? なんか黒いのがあったけど、玄関に」

黒いの? ……しまった! 墨だ! 

イカが墨を吐くのをすっかり忘れていた。慌てて玄関に走ると、イカが入っていたビニール袋は真っ黒、何がいるのかさえわからない、ゴミなのか何なのかという有様だ。

「開けっ放しにしてるからよ。明るいからビックリしたのよ」

そうか、ビックリしたのか。イカ墨だもんな、そりゃ吐くさ、墨。こんなに真っ黒じゃ、何が何だか、イカが入っていることさえわからない。

持ち上げるとぴくりとも動かない。墨の間から、身が白くなっているのが見えた。

「死んじゃったんじゃない?」

死んじゃってるね。

同封の説明書には、24時間以内にさばいてくれと書いてある。クール状態で24時間だ。常温で明るくてイカは怒りまくっていたら、数時間で死んじゃった。

ああ、大失敗。
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生きてるイカはものすごいことなのだった

改めて取り寄せ直した。いらないことをするから、こういう無駄なことをしなくてはいけなくなるのだ。自分の人生を象徴している。

再びイカが届いた。今度は見せびらかしたりせず、すぐに捌くことにする。写真を撮らなきゃいけないので、嫁にさばいてもらった。なんか面倒臭いし。慣れた人の方が良いし。

袋から出した。ざーっとザルにあけた。グニャグニャと足が動く、動く。ものすごい鮮度だ。色がすごい、体の表面の色の細胞が大きくなると色を出し、小さくなると透明になるのだ。初めて見た。生きているのだ。嫁の指にビタッとイカの足の吸盤が引っ付いて離れない。イカも必死だ。これを食べるのは、ちょっと可哀相な感じがする。

まず内臓を抜いた。卵がびっちりだ。イカも卵で増えるのだね。あれ、どこだよ、肝。

「これじゃないの?」

普通、イカの肝といえば、茶色でゴロンとしたものだが、このイカの肝はオレンジ色で、ウニの身みたいだ。それがちょっとだけ、筋のように入っているだけだ。普通の3分の1もないかもしれない。1杯じゃとても塩辛なんてとても無理だ。肝は2杯分使うことにした。

次はエンペラを剥ぎ、皮をむく。
いか道楽