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「廃墟」の魅力を解く

都市化されつつある日本が生んだ
幻の空間……それが「廃墟」?

 19世紀後半のヨーロッパ――画家、作家など多くの芸術家、文化人たちの間で、古代ギリシア、古代ローマの時代から残る荒れ果てた遺跡を訪ね歩く流行があったといいます。特にイギリスやドイツで見られた現象らしい。彼らは時を超え、遥か古えのその時代に生きたであろう芸術家たちの軌跡を辿ることで新たな自分を創造したかったのでしょう。彼らの多くは、より優れた芸術性へと自分を導くための、あくまでも高尚な趣味だとしたそうです。

 21世紀、現代の日本でひそかに流行している「廃墟を歩く」行動は、そんなヨーロッパのロマン主義的発想と類似するのでしょうか? 書店を見渡せば数多くの「廃墟」の文字が踊ります。それも大型の豪華写真集であったり、文庫サイズの手軽なものであったりと、さまざまです。「廃墟」の2文字でネット検索すれば、100万件に近い数のHPに目を見張るばかりです。

 確かに都市部では決して見ることのできない空間に出会うことができます。どこも似たような高層ビル群に囲まれ、人があふれているわりには心と心が通い合っていない毎日を過ごす人たちにしてみれば、そこは別世界! たとえ人の気配など感じぬくらい無機質な空間であっても、たとえ荒廃した風景であっても、どこか懐かしい、どこかホッとする、新鮮な魅力を感じてしまうことさえあるかもしれない。人まみれの都市部よりも、むしろ、そこで暮らしてきた人たちの人間くさい息づかいが充満しているように映ることもあります。

「廃墟」……、そこには、風景以外のなにが見えるのでしょう……?

 都市化された日本が生んだ幻の空間……? それが「廃墟」?
廃墟
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廃墟の歩き方 探索篇

写真の1コマになったとたん、
「廃墟」は「自然」へと姿を変える

 カメラマンの人たちは人里離れた場所を歩き回ることがよくあります。時間があればロケハン(撮影に適した場所を探す)と称して、できるだけだれもいない空間を求めて歩き回ります。これはずっと過去から変わりません。山の中にポツンと佇む崩れかけた1軒の家屋を発見すると、まるで自分だけの「聖地」であるかのように喜ぶといいます。所有者、管理者などの存在を調べ「ここでの撮影が可能かどうか?」を交渉。OKであれば次回から自分のロケ場所のひとつに加える。事実、人気アイドルの写真集の中の1枚が人里離れた廃校で撮影されることもまったく珍しいことではありません。制服姿でニッコリと微笑みかけるアイドル……、ファンならドキドキしてしまいそうな写真の背景が、今は誰1人生徒も通うこともない閉鎖された学校。でも、むしろ自然です。

 スタッフ以外の人が来ることはめったにない。じっくりと落ち着いてシャッターを切ることができる。じつは、そんな空間こそ、格好の撮影場所でもあったわけです。古びて破れかけた子どもの絵、置き忘れた教科書が入ったままの勉強机……、撮影に最適、じつにリアルな小道具も現場調達できます。

 カメラマンだけではありません。ドラマの制作関係者もいるでしょう。映画監督もいます。画家もいるかもしれません。詩人もそこに足を踏み入れたかもしれません。荒廃した風景の中に1人身を置くことで、本当の自分自身に還ることができる……、そんな想いがそこにはあるような気がします。いわゆるアーティストたちにとっては異空間ではなく、むしろ自然を演出する場所だった……、それが「廃墟」なのかもしれません……?
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無機質な被写体だからこそ、
人間らしい感覚が見え隠れする

 消え行く廃線の姿にいとおしい視線を向けた1冊、堀淳一氏・撮影による『消えた廃線 レール跡の詩』が、鉄道マニアばかりでなく、広くアーティスティックな感覚を持つ人々からの熱い支持を得たのは、今から四半世紀以上も遡る1983年のころでした。そこにモデルの女性がいるわけでも、ましてや、アイドルがいるわけでもない。ただただ写り込んでいるのは「廃線」だけ。被写体はすべて「廃線」そのもの。主役は「廃線」……。今また、そんな写真集の評判が世の「廃墟」ブームに、よりいっそうの拍車をかけています。ネット上での情報交換、論議、自作写真の発表、旅日記などなど……、すさまじい勢いで、自称「廃墟マニア」が増えつつあります。

『廃墟遊戯』、『廃墟漂流』、最新作『亡骸劇場』と、たて続けにヒットを放つカメラマン・小林伸一郎氏は、一般の人たちまでをも「廃墟回帰」へと覚醒させた火つけ役の1人といっても過言ではありません。彼の後を辿るように現地に赴き、自らシャッターを切る若者たちも数多くいます。10年以上、いや数10年もかけて1つのテーマに取り組むプロのカメラマンにかなわないことは目に見えていても、「自分の夢」とまで言い切り、新たな「廃墟」を目指し、歩き続ける若者もいます。栗原亨氏・著による『廃墟の歩き方』(「探索編」、「潜入編」)と題した書物が、「廃墟」の魅力から歩き方のノウハウにいたるまでを懇切丁寧に解説したことも、その影響大と言えます。

 そして、なにより、バブル経済崩壊以降、「廃墟」という空間そのものが増加する傾向にあることも彼らを旅に向かわせる要因なのかもしれません……?
亡骸劇場